睡眠の正体
これまでも、「睡眠の質を高めるコツ」として、いくつかのヒントをこのコラムでもご紹介してきました。
今回は、身体に欠かせない「睡眠」についてより深く掘り下げていきたいと思います。

目次
なぜ人は眠るの?
私たちの一生のうち約3分の1の時間を占めるといわれている「睡眠」は私たちが生きていくうえで、欠かせないものです。
睡眠は、私たち人間をはじめ、ほとんどの動物に毎日起こる生理現象であり、生きていくためには必要不可欠なことです。
睡眠中は何もしていない時間だと考えている人もいるかもしれませんが、「脳と身体の休養」と「脳内情報のコントロール」という2つの重要な働きがあります。
脳と身体の休養

哺乳類や鳥類等の恒温動物は、外部からの情報を処理し、身体をよりうまく働かせるために大脳を発達させてきました。
しかし、大脳は多くのエネルギーを消費する器官のため、脳と身体の機能を維持・管理するには必要不可欠となりました。
これが睡眠です。
私たちは進化の過程で、身体が休む時間に大脳を休息・回復させ、必要な時に高い機能状態の覚醒を保つ能力を持つようになりました。
つまり、高等な哺乳類にとっての睡眠は、身体を休めたり、大脳の活動を低下させることで休養させるシステムであると考えられています。
このシステムを作動させるためには、深部体温を積極的に下げることが必要です。
深部体温とは、内臓や脳等の身体の内部の温度を指します。
そして、体内の温度が下がると、代謝が下がり、休息状態に入ります。
人間は手先や足先から熱を逃すことで、体内と脳の温度が下がりはじめ、だんだんと眠くなることが明らかになっています。
赤ちゃんの手足が温かくなるとねむくなるのも、このシステムが働くことによるものと言われています。
大人も同様に、夜になると自然に眠くなるのはこうした働きがあるからです。
このことから、冷え性で手足が冷たくなりやすい人は、熱を逃すことがうまくできず、不眠になりやすいといわれています。
1日の中での眠気の変動は体内の温度と連動しています。
徹夜で帰宅した後に昼間に眠ろうとしてもぐっすり眠れません。
これは、昼間なので、深部体温が上昇しているからです。
時差ボケで眠れないのもこれと同様の理由です。
脳内情報のコントロール

外部から脳内に取り入れた情報は、それぞれの要素を担当する脳の各部位に送ることにより認識されます。
睡眠が不足することによって、特に大脳の認知機能や思考・意欲等の精神活動全般をつかさどる「前頭連合野」と、触覚や視覚の感覚の処理や視覚からの情報をもとに手足や身体の運動をつかさどる「頭頂連合野」の機能が低下します。
これにより、注意力や集中力が低下し、記憶の定着や意欲の向上、感情のコントロール等、様々な機能に支障が出やすくなります。
脳を最高の状態で働かせるためには、睡眠がとても重要です。

なぜ人は眠くなるの?
なぜひとは眠くなるのでしょうか。
私たち人間が眠くなるのは疲れを感じて眠くなる「恒常性維持機構」と、夜になると眠くなる「生体時計機構」の2つが総合的に補い合って働いているからです。
恒常性維持機構
睡眠物質の蓄積
私たちは、日中長い時間起きていると次第に眠くなります。
特にスポーツをして身体を動かしたり、頭を長時間使う作業をした日には、脳や身体の疲れを回復させるために睡眠が必要となり、眠気が起こります。
また、脳は日中活動している間に一種の老廃物である睡眠物質を産生します。
これは眠りを引き起こす物質であり、起きている間に徐々に蓄積されます。
日中、脳の活動は多くの神経伝達物質とホルモンのサポートによって成り立っています。
これらの物質は脳内での役割を終えると分解され、夜になると残骸となって脳内に蓄積するのです。
代表的なものに、プロスタグランジンD2があり、強力な睡眠誘発作用があります。
睡眠負債の解消

睡眠物質が蓄積された状態を「睡眠負債」といいます。
この睡眠負債は眠ることでしか解消できず、睡眠負債がたまった状態がつづくと、脳の働きが低下します。
睡眠が不足すると、その日の不足分がなくなることはなく、翌日に持ち越しされます。
翌日も不足するとさらに次の日に持ち越されるというように、日ごとに次々に不足が加算されていきます。
たとえば、8時間睡眠が必要なひとがその日3時間しか睡眠をとらなかった場合、1日で5時間の不足ができてしまいます。
これを解消するためには、翌日13時間の睡眠をとらないと不足は解消されません。

睡眠負債が蓄積するほど脳は眠るように強く指令を出します。
それにより、仕事中や通勤中に居眠りをすることで脳は負債を減らそうとします。
それにより、仕事でミスをしてしまったり、勉強に集中できなかったり、思わぬ事故を起こす等の問題が発生することがあります。
睡眠不足を解消するためには、休日に長めの睡眠をとる、仮眠をとる等の方法があります。
私たち人間は「ねだめ」をして、睡眠の貯金のようなものをつくることはできません。
ただ、休日に少し多めの睡眠をとることで、睡眠負債があった場合、それを軽減することは可能です。
しかし、睡眠リズムを崩さない程度の睡眠時間を心がけることが大切です。
また、睡眠をあまり取れないとわかっている日があれば、その前に少しの時間であっても仮眠をとることで眠気が和らいだり、疲労感が軽減されるといわれています。
このように、恒常性維持機構がはたくことで、睡眠が誘発されるのです。
生体時計機構

生体時計機構とは、その日の体調や疲労感等に関係なく「夜になると眠くなる」という体内時計によるものです。
この働きは、脳の視床下部にある「視交叉上核」というとても小さな器官で調整されています。
視交叉上核の指示によって、夜になると「メラトニン」というホルモンが徐々に分泌されて眠くなります。
体内時計はなぜみだれるの?
私たちの体内時計は24-25時間といわれています。
しかし、実際には現代の不規則な生活習慣や人口照明等の影響等により、生体リズムは乱れ、その結果、体内時計に個人差が現れ、23時間周期の人や26時間周期になっている人もいます。
これによって、決まった時間に深部体温や血圧が上がらなかったり、集中力が高まらなかったりとさまざまな問題が発生しています。
太陽の光の入らない地下室や時間の手がかりの全くない部屋で長時間過ごしていると、ほとんどの人は、寝る時間と起きる時間が日々1時間ほどずれていくことがわかっています。
また、2週間もたつと、昼夜逆転の生活になって今うことも確認されています。
体内時計の周期を地球の自転と同じ24時間に合わせて生活するためには、毎日の修正が必要です。
私たちは目の網膜に強い光が入ることによって朝を感じ、夕方暗くなって、網膜に入ってくる光の量が減ることによって夜を感じます。
それと同時に、睡眠をコントロールするホルモンであるメラトニンの分泌量が増減することによって、覚醒と睡眠を繰り返します。
このことから、地球の自転に合わせた修正を行うために体内時計が利用しているのが「朝の光」といえます。
目から入った太陽の光は、「視交叉上核」の時計遺伝子に直接働きかけ、体内時計をリセットしているのです。
体内時計の性質
体内時計には、約24時間の周期を刻み続け、生体リズムのずれを微調整することと併せて、大切な性質があります。
それは、環境・温度に左右されないというものです。
たとえば、外気温が低下し、血管が収縮しても体内時計だけは影響を受けることなくリズムを刻みます。
この、温度変化に影響を受けず、一定のリズムを保つ機能を「温度補償性」と呼びます。
人間には「真冬の寒い朝でも目覚めることができる」「真夏の暑い夜でも眠ることができる」といった機能が備わっているのです。
体内時計はいつできるの?
私たちの身体は、体内時計によって、1日24時間のリズムで生活しています。
しかしながら、赤ちゃんには体内時計の働きがまだないため「ウルトラディアンリズム」という数十分から数時間周期のリズムを刻んでいます。
生まれて間もない新生児の睡眠と覚醒は、おなかがすいたら目を覚まし、ミルクを飲んでおなか一杯になると眠くなるという、昼夜の区別がない3時間ほどのサイクルを繰り返します。
生後1-2か月ごろになると徐々に体内時計が形成されはじめ、3-4か月ごろから約25時間のリズムを刻むようになります。
ここで、体内時計をリセットする手助けをしているのが、母乳やミルクです。
赤ちゃんは眠りを促すメラトニンを3-4か月ごろまで作り出すことができないため、母乳やミルクからメラトニンを摂取し、眠りをコントロールしています。
この働きにより、約25時間のサイクルを24時間のリズムにリセットしています。
また、体内時計が完成する3-4か月以前の時期に夜更かしをしたり、眠る時間を変えたりすると、睡眠リズムをつくろうとしている赤ちゃんの妨げになるので、眠る少し前から部屋を暗くしたり、朝になったらカーテンを開けて太陽の光を浴びるという規則正しい環境を作ってあげることが大切です。

レム睡眠とノンレム睡眠

私たちは睡眠中、ただ眠っているだけではありません。
一晩の間に浅い眠りと深い眠りを繰り返しています。
この二つの睡眠を「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」と呼びます。
レム睡眠は、爬虫類や両生類、魚類等の原始的な眠りであり「古い型の眠り」といわれています。
大脳があまり発達せず、外気や水温に影響を受けやすい変温動物が、エネルギーを温存するために身体を休ませながらも、脳の一部は覚醒させることで、注意機能を少し残しておくために発達させたシステムです。
反対に、ノンレム睡眠は、ほ乳類や鳥類等の大脳や筋肉、交感神経の発達した動物の脳を休息させるためにできた「新しい型の眠り」といわれています。
大脳が発達した動物は、身体だけではなく脳の活動も休ませてエネルギーを温存するためのシステムが必要となりました。
特に、人間は他の動物に比べ大脳が極端に発達したため、ノンレム睡眠を多く必要としたと考えられています。
私たちは、眠りにつくとまず1-2時間ほど深いノンレム睡眠に入り、ぐっすりと眠ります。
その後、眠りは浅くなり、レム睡眠を経て再びノンレム睡眠に入ります。
このように、一晩のうちに交互に3-5回、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰りかえします。
また、一晩の眠りの経過を見てみると、前半は比較的深い眠りであるノンレム睡眠が多く、後半は浅い眠りであるレム睡眠が多いということがわかります。
レム睡眠中には何が起こっている?

レム睡眠は、瞼のしたで急速眼球運動がみられることから、Rapid Eye Movementの略として、レム(REM)睡眠と呼ばれています。
レム睡眠は、主に身体を休める睡眠であり、脳内で記憶の整理・定着を行っているといわれています。
また、身体は深く眠っているが、脳の一部は目を覚ましているときとほぼ同じ状態で活動しています。

記憶に係わる機能をつかさどっているのは「海馬」と「大脳」です。
海馬は物事をすぐに記憶するが忘れやすく、大脳は物事を中々記憶できないが、覚えたことを忘れにくいという特徴があります。
私たちが日中に体験したことは、最初に海馬に記憶され、忘れないうちに覚えた記憶を大脳に移します。
このプロセスを「2段階モデル」といいます。
この2段階目である、海馬から大脳に記憶を移行する作業が睡眠中に行われているのです。
睡眠中は、視覚や聴覚等の機能が低下していて静かに集中できる時間なので繊細な作業をするのに適した時間です。
この作業で、記憶を整理するのに有効な情報を持つ神経同士がつながり、不要な情報を判断し消去します。
この作業で記憶を量的にも変化させ、脳の空き容量を増やしていきます。
また、「ひらめき」の機能もレム睡眠中にあります。
詰め込みすぎてしまった、さまざまな情報がつながり、解決するのがひらめきです。
睡眠中は脳内の情報をフル活用し、質的にも変化しています。
寝言を言うのも脳の一部が起きているレム睡眠に多いといわれています。
寝言に対してあいずちをうったり、反応したりするのはよくないと聞いたことがあるのでは?
これは、寝言を言いながら記憶を整理しようとしている時間に、余計な情報を与えてしまうと混乱が起こりやすいからと考えられています。
ノンレム睡眠中には何が起こっている?
ノンレム睡眠は、瞼の下での急速眼球運動がみられないことから、REMではない睡眠という意味で、ノンレム睡眠(Non REM)と呼ばれています。
ノンレム睡眠は、大脳を休ませるための眠りであり、大脳に蓄積された睡眠物質を除去し、大脳を回復させるための時間です。
しかし、脳の中心部にある脳幹と間脳は、生命を維持するために心臓や肺等の臓器を動かし、血液を循環させる等の活動を行うための指令を出しています。
これらの組織は、生命活動を維持するために絶えず働いていて、自律神経をコントロールしています。
また、ノンレム睡眠中は深部体温が下がり、脳のエネルギー消費量は1日の中で最も低くなります。
そして、副交感神経が優位になるため、血圧や心拍数も低下します。

なぜ夢をみるの?

なぜ夢を見るのかという理由は、はっきりとは解明されていません。
眼球の動きが脳を刺激し、それによる映像や連想、記憶の整理等の現象が、夢ではないかといわれています。
夢は記憶と深い関係があります。
現在の睡眠科学では、記憶の再生と処理の過程で現れる脳内イメージ現象を「夢」と定義しています。
実は、脳の活動状況がある程度保たれているレム睡眠中だけではなく、ノンレム睡眠の時にも夢を見ているといわれています。
レム睡眠の夢
レム睡眠中は大脳の活動が活発になっているため、脳はも各政治に近い状態になり、比較的はっきりとした夢を見ます。
内容がドラマ風であったり、ストーリー展開する夢もこのときに見ています。
特に、レム睡眠中に目を覚ますと、他人に対して夢の内容を説明することができるほど覚えていることが多いとされています。
ノンレム睡眠の夢
はっきりしない夢であり、平凡な内容でほとんど覚えていないことが多いとされています。
目が覚めた時に、「何となく夢を見たような気がする」程度の感覚であり、夢を見たことは残っているが、どんな夢かを説明することはできないような脈絡のない、淡く短いものが多いといわれています。

なぜ寝返りをするの?

私たちは、寝相の良い悪いにかかわりなく寝ている間に20-30回の「寝返り」をうっているといわれています。
無意識のうちに行っている寝返りには、3つの意味があるといわれています。
1つ目は、睡眠中の布団の中の温度と湿度の調節です。
私たちは睡眠中に汗をかくので、布団の中の温度や湿度が上昇します。
長い間同じ姿勢で寝ていると熱がこもり、睡眠中にも暑さをかんじるため深部体温調整を行うために寝がえりを打ちます。
2つ目は、血液や体液の流れを促進するためです。
寝返りをせずに同じ姿勢で眠っていると、寝具と接触している部分に圧力がかかって血流が悪くなるため、酸素や栄養素が身体中にいきわたらず、疲労がたまりやすくなったり、肩こりや腰痛の原因になることがあります。
3つ目は、ノンレム睡眠とレム睡眠の睡眠段階を切り替える際のスイッチの役割があります。

睡眠中にもホルモンは出ている?

私たちの身体は、朝目覚め、日中になると眠くなるというリズムを刻んでいます。
このリズムの形成にはホルモンの働きが大きくかかわっています。
特に睡眠と関係が深いものに「メラトニン」「コルチゾール」「成長ホルモン」の3つがあります。
まず、睡眠の基本のリズムを作っているのがメラトニンとコルチゾールです。
メラトニンは全身に「夜」を伝え、コルチゾールは「朝」を伝えます。
この二つの分泌量は反比例の関係にあります。
また、睡眠中に成長ホルモンが多く分泌され、日中の傷ついた細胞や組織を修復したり、骨代謝や肌の再生を行う等のさまざまな役割があります。
メラトニン

メラトニンは、脳の視床下部の近くにある松果体から分泌され、深部体温を下げて睡眠を誘発するホルモンです。
メラトニンの分泌量は、目の網膜から入る光の量によって変化します。
朝日を浴びてから12-15時間後、つまり、太陽が沈む夕方から夜間にかけて光の量が減っていくことにより、徐々に分泌量が増加していきます。
それと同時に、自律神経のうち副交感神経が優位になり、深部体温を下げ、眠りを促します。
こうした働きは、1日約24時間の生体リズムの形成において重要な役割を果たしているのです。
また、メラトニンには、光を感知すると分泌量が減少するという特徴があります。
寝る前にパソコンやスマートホン等の液晶画面から強い光を浴びてしまうと、スムーズな入眠の妨げとなるので注意が必要です。

メラトニンの作用は、いまだ不明な点も多いのですが、睡眠を誘発するほかに、エネルギーを使った後に発生する活性酸素を除去する、抗酸化作用により細胞の新陳代謝を活性化させる、疲労回復、抗がん作用、性腺機能抑制等のさまざまなはたきがあるといわれています。
メラトニンには原料がある

メラトニンはセロトニンを元に生成されます。
セロトニンは、脳内や中枢神経で働く神経伝達物質であり、心身の安定を保つ働きがあります。
そして、セロトニンの原料はトリプトファンというアミノ酸です。
トリプトファンは体内で合成することのできない必須アミノ酸であり、食事から摂取することが大切です。
特に納豆等の大豆製品やバナナ、ナッツ類、ヨーグルト等に多く含まれています。
メラトニンの分泌を維持するためには、トリプトファンを十分に摂取し、朝日を浴びて日中にセロトニンの生成を促し、夕方以降のメラトニンの生成につなげていくことが大切です。
コルチゾール

コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンです。
副腎は、左右の腎臓の上にある5g程度の小さな内分泌器官です。
そして、表面の皮の部分を副腎皮質といいます。
コルチゾールは、夜間に血糖値を維持するために分泌されるホルモンです。
コルチゾールは、脂肪や肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解して、ブドウ糖を血液中に補給します。
これによって、睡眠中の血糖値を一定に保ち、睡眠中も心臓や肺を動かしたり、身体の細胞を修復したりするエネルギーを作っています。
コルチゾールの分泌は、体内時計に支配されており、深夜から明け方にかけて多く分泌され、徐々に血圧や血糖値、交感神経を上昇させ、身体が活動しやすい状態にすることで覚醒を促します。
朝から昼にかけて減少し、夕方には最も低くなります。
成長ホルモン

成長ホルモンは脳の下垂体前葉から分泌され、睡眠中に成長を促進するほか、身体の修復や疲労回復、糖質・脂質・たんぱく質の代謝にも関係しています。
代謝を促進することにより、脂肪を減少させる効果もあります。
成長ホルモンは眠り始めてから約3時間の間に多く分泌され、入眠1時間後に分泌のピークを迎えます。
また、成長ホルモンの分泌量は睡眠の深さによって、変化し、睡眠の深さは、深部体温の低下の度合いによって決まります。

深部体温は起きている間に高く、夜に低下するという特徴があります。

睡眠のタイミング 朝型と夜型

睡眠をとるタイミングには個人差があり、早寝早起きが得意で、朝からしっかり活動できる朝型人間と、午前中はなかなかやる気が起きないけれど夕方になるにつれてエンジンがかかる夜型人間がいます。
朝が得意か、夜が得意かは仕事や年齢、生活環境、ライフスタイル、遺伝等も関係している言われています。
また、このタイプの違いを生み出すことに大きな影響を及ぼしているのが「深部体温のリズムのずれ」です。
深部体温は、通常、朝起きて日中活動時には上昇し続け、夕方ごろにピークを迎え、夜は低下が続き、明け方に最も低下するというリズムがあります。
深部体温が高いほど脳や身体はスムーズに働き、下がるほど眠くなり、休息状態を導きます。
そして、この深部体温リズムは1-2日夜更かしをした程度ではずれにくいという特徴があります。
しかし、慢性的な夜更かしが続くと少しずつずれが生じ、いったんずれが生じるとなかなか元に戻らなくなっていきます。
深部体温のリズムが慢性的にずれてしまうと、不眠の発症につながります。
夜は深部体温が下がり始めていない時間帯に布団に入ることになるため、なかなか眠りにつけません。
また、朝は深部体温が下がったまま上昇しにくい時間になるため、目覚めが悪い等といった状況が派生しやすくなります。

<朝型の特徴>
朝型の場合、早い時間から深部体温が上昇し、午前中から活発に活動することができます。
そして、夜になるとしっかりと深部体温が下がることで、寝つきがよくぐっすりと眠ることができます。
<夜型の特徴>
夜型は、深部体温が上昇するタイミングが遅れ、昼過ぎごろになってようやく調子が出てくるという特徴があります。
そして、ピークになる時間が夜遅い時間にずれていくため、寝つきが悪く、寝不足や不眠を訴える人が多く、生活習慣が乱れる傾向にあるとされています。
しかし、夜型の人は、不規則な生活が多い分、突然の生活スタイルの変化や環境の変化に順応しやすいともいわれています。
深部体温のずれを戻すためには?
夜型の生活が習慣づいて、睡眠に関する不快な症状や悩みを抱えている場合、深部体温を本来のリズムに戻していくことで、解消されやすくなります。
深部体温のリズムを整えるためには、朝起きてから日中の間、適度に筋肉を使って熱産生を高め、早めにピークに達するようにすることが必要です。

ウォーキングやランニング、自宅またはスポーツジムに通ってのエクササイズ等、さまざまな方法の中から取り入れられるものを見つけて、少しの間でも身体を動かすとよいでしょう。
また、熱を生み出すための手軽な方法に、背中の筋肉を動かしてミトコンドリアを有効に使う運動があります。
ミトコンドリアは、脳や筋肉の細胞の中に多く存在し、糖や酸素と反応させてエネルギーを産生しています。
ミトコンドリアが減少すると、作られるエネルギーが不足してしまうため、ミトコンドリアを増加させることが必要です。
筋肉に存在するミトコンドリアは、遅筋を使う有酸素運動をすることで増やすことができます。
遅筋は身体を支えている背中側の筋肉に多く含まれているため、背中周囲の筋肉を動かすことで効果的に深部体温を上げることができます。
たとえば背中を丸めて(前で両手を組んで)肩甲骨周囲の筋肉を伸ばしたり、逆に左右の肩甲骨をくっつける(後ろ側で両手を組んで伸ばす)ような姿勢をとる等、家庭や職場等でもこまめにストレッチをおこなうとよいでしょう。


ベストな睡眠時間は?

睡眠は長すぎても、短すぎても何らかの支障が発生します。
現在の睡眠科学では、健康で長生きしたいなら6-8時間、頭をスッキリさせたいなら7-9時間の睡眠がベストだといわれています。
そして、この時間の範囲内から自分の生活スタイルにあった睡眠時間を見つけることが大切です。
また、健康で長生き、かつ、頭をスッキリさせるには、7時間睡眠が一番効率的に心と体を休めることができる時間といわれています。
アメリカの100万人以上を対象とした疫学調査の結果や、日本人10万人以上を対象とした疫学調査でも、心身の健康を保つためにもっともよいといわれている睡眠時間は7時間であると判明しています。
死亡率からみても7時間眠っている人がもっとも死亡率が低く、寿命が長いことが明らかになっています。
この7時間睡眠は「一昨日は4時間睡眠、昨日は10時間睡眠」というように、平均して7時間眠るのではありません。
短眠と長眠を不規則に繰り返すと身体のリズムが乱れ、健康を損ねることがあります。
規則正しいリズムでの睡眠は、メタボリックシンドロームや高血圧、糖尿病、動脈硬化等の生活習慣病や、感染症、アレルギー、うつ病等の疾患に罹るリスクを低下させるといわれています。
ショートスリーパーとロングスリーパー
毎日の睡眠時間が短くても元気な人もいれば、いつも長い時間寝ないと調子が悪くなる人もいます。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
私たちの人間の眠り方には3つのタイプがあります。
それが、ショートスリーパーとロングスリーパー、バリュアブルスリーパーです。
ショートスリーパーは睡眠時間が6時間未満で生活に支障が出なかったり、それくらいの睡眠で問題なく活動できる人を指します。
歴史上の有名な人物にナポレオンやエジソンがいます。

ナポレオンは3時間睡眠、エジソンは4時間睡眠であったといわれています。
特に、ナポレオンは、ショートスリーパーであったことで、いかに自己統制に優れた策略家であったかということがエピソードとして語られています。
また、ショートスリーパーの人は、遺伝的要素が強いとされており、全体のわずか0.5%しかいないといわれています。
つまり、200人に一人の割合であり、誰もがショートスリーパーになれるというものではありません。
ロングスリーパーは、睡眠時間が9時間以上の人を指します。
歴史上の有名な人物にアインシュタインがいます。
アインシュタインは10時間も睡眠をとっていたといわれています。
ロングスリーパーであったことで、長期的に考え素晴らしい心理に到達するためには、あせらずゆっくり考えることが大切という意味でそのエピソードが語られています。
そして、バリュアブルスリーパーは、睡眠時間が6-9時間の人を指し、世界の大多数がこのバリュアブルスリーパーだといわれています。


寝酒やコーヒーはなぜいけない?

<お酒>
寝付けない夜にお酒を飲むことで、アルコールを睡眠薬代わりに飲む歴史は古くからあります。
アルコールを飲むと、通常よりも成長ホルモンの分泌が増加する最初のノンレム睡眠の時間が長くなるため、一見良い作用があると思われがちです。
しかし、最初のノンレム睡眠のあとのレム睡眠まで長くなってしまうことから、夜中に目が覚めやすくなってしまうというデメリットが発生します。
また、摂取したアルコールは、肝臓で分解されますが、分解の過程でアセトアルデヒドという物質に変化します。
アセトアルデヒドは交感神経を活性させる働きがあるため、休んでいる状態の脳を覚醒させ中途覚醒や早期覚醒を引き起こしやすくします。
アルコール依存症の人は、うつ病を合併することも多く、さらなる不眠を招く悪循環に陥ります。
寝る前の飲酒は適量を守ることが大切です。

<カフェイン>
コーヒーやお茶、紅茶等に含まれるカフェインは睡眠を妨げるといわれています。
カフェインは神経を興奮させたり、利尿作用があることから、寝つきが悪くなり、正常な睡眠のサイクルに支障をきたしてしまいます。
これにより、睡眠前には避けることが勧められています。
また、カフェインは体内に入ってから3-4時間かけて代謝されるため、寝る直前のカフェイン摂取は避けることが大切です。
カフェインを含む飲み物はコーヒー以外のお茶類にも多く含まれているので注意が必要です。

アルツハイマー病の原因は睡眠不足?
近年、睡眠不足が蓄積する「睡眠負債」に注目が集まっています。
睡眠負債は、生活の質や仕事のパフォーマンスを低下させるだけでなく、様々な病気のリスクを高めることが知られています。
特にアルツハイマー病との関連性があることがわかりました。
認知症の6-7割を占めるとされるアルツハイマー病は、異常なたんぱく質である「アミロイドβ」が、約20年間にわたり徐々に脳内に蓄積することが原因の一つとして考えられています。
アミロイドβが蓄積することで海馬が委縮し、脳の神経細胞が死滅していくことで、記憶障害や見当障害などの症状が現れます。
進行を抑える目的の薬はありますが、根本的に変化させる薬は現時点ではありません。
よって、死滅した脳細胞は元に戻らず施術が困難なため、予防が重要とされています。
睡眠不足はアルツハイマー病のリスクを高める?
アミロイドβは、脳が活性化することで作られるため、完全にゼロにすることはできません。
つまり排出させるしかないのです。
実は、アミロイドとよばれる老廃物の一種は、脳以外の全身でもつくあれているのですが、それらはリンパが張り巡らされていることによって、除去されています。
脳の場合はというと、近年の研究により、寝ている間にアミロイドβなどの老廃物を排出していることがわかってきました。
寝ている間に脳が縮んですきまができることにより、老廃物が脳脊髄液(のうせきずいえき)に染み出して排出されるのです。
睡眠時間を十分に確保することは、脳の老廃物であるアミロイドβを排出し、アルツハイマー病の発症を予防するためにとても大切だといえます。
反対に睡眠不足になると、アミロイドβの排出が十分に行われず蓄積し、結果としてアルツハイマー型認知症になるリスクが高まってしまうのです。
週末に寝だめしていない?

現在の生活のなかで睡眠負債があるかどうかを判断する手掛かりのひとつとして、週末に「寝だめ」をしているかがあります。
普段の睡眠で睡眠負債を抱えていると、休日の寝だめに頼ってしまいます。
休日の寝だめは生活リズムを乱し、かえって平日の睡眠に支障をきたし、負債を増やします。
ではどのように睡眠負債を返済していけばよいかというと、それは平日の睡眠時間を少し延ばすことです。
そして、休日の睡眠時間は平日と同じ、またはのばしても2時間以内にするとよいでしょう。
また、なかなか眠れないと思っている方は、下記のなかで生活に取り入れやすいものを実践してみましょう♪
<<良い睡眠をとるためのチェックリスト>>
- 朝起きたら太陽の光を浴びる
- 寝る前約1時間前にお風呂に入る
- 寝る前のスマホの使用を避ける
- 寝なければと意識ししすぎない
